2023年4月のこととか

❒ 4月1日
朝から鼻水が止まらない。薬を飲む。さらに追い薬で悪魔と契約しようか迷い、とりあえず保留。天気が良すぎるので何としても今日は外に出たいが、すさまじい量の花粉が飛散していそうだ。

とりあえず食べて着替えて外に出る。思った通り花粉で鼻と喉がピリピリする。だけど、暖かくて最高の天気。散歩がてら歩いて行ける距離にある大きな公園まで向かう。一周して幸せそうな家族連れ、恋人たち、友人たちや大学生のサークルと思われる集団のピクニックを眺める。ギターを弾いている人たちもいる。めちゃくちゃ羨ましい。今、この瞬間に誰かとピクニックしたい。明日や一週間後ではダメなんだ。一人でちょっぴり寂しく思いつつも、ハッピーな人間たちのポジティブバイブスを受けて癒された。どんなに人がたくさんいても、ここは自然豊かな公園。歌舞伎町のように邪気を吸うことはない。ベンチに座って本を読んでいたら少しうとうとしてきた。帰り、デパートとドラッグストアに寄って帰宅。

夜、『白いリボン』を観る。今までに観たハネケの映画の中である意味一番すごいと思う。なのに、なぜかあまり入り込めない。一見美しく静かで慎ましいが、その実、世界の(小悪党めいた)嫌な部分や不穏さが全て凝縮されたような北ドイツの小さな村の話。

❒ 4月2日
3度寝くらいしてやっと起きた。無気力かつ暇すぎる。前にも書いたかもしれないけれど、自分の場合「暇」と感じる時は、必ず「無気力」がセットになっている。やるべきことはいくつかあるのに何もやる気が起きない時に「暇」と感じるのだ。ダラダラ何かやろうとしてはやめ、出かけようとしてはやめを繰り返して、結局映画2本観るだけのいつもの休日を過ごした。

マネーボール』。すごく面白いしタッチも良い。しかし、あえて言うと、それ以上のものをあまり感じない映画でもある。本作の最大の魅力はあくまで「マネー・ボール理論によって、低予算の球団が奇跡の強豪チームへと変貌していく」こと自体の快楽であって、それほど魅力的にキャラクターを演出できているとは思えなかった。

Zola ゾラ』。A24配給なのに日本ではそこまで話題になっておらず、あまり注目していなかった作品。Twitter上の148のTweetを話の元にしているところだけでなく、音楽・効果音(iPhoneの操作音など)の使い方や、基本的に下世話で軽薄な物語をフィルム撮影による抒情的な映像で美しくとらえているところなども含めて"最新の映画の形"という感じがしてとても良かった。人種差別や性的搾取など現実的なテーマを扱っていながら、演劇的な演技と寓話っぽい演出で距離を保っているところが、独特のユーモア感を生み出している。86分で終わるのもピッタリ。

❒ 4月6日
起きた。今日はライブに行くために休みを取った。副菜ありの健康的な飯を食べた。『イニシェリン島の精霊』を観る。序盤からいい歳した大人の男性二人が子供じみた喧嘩を始めたのが最高すぎて一気に惹きつけられた。めちゃめちゃ変な映画。

次第に物語は凄惨な様相を帯びていくが、凄惨であればあるほどどんどん滑稽に思えてくる。いわゆる"リアリズム"の作品というより、本作は明らかに寓話的な趣がある。ただし、これは全く現実を反映した寓話であって、パードリックとコルムの滑稽な争いは、まるで人の世の縮図のよう。劇中、アイルランド内戦の砲撃の音が聞こえてくることからも暗示されるように、二人の対立に政治と戦争の現実を重ねることもできる。政治的な利益や大きな憎しみだけでなく、些細なことが発端になってもはや何のために、どんな理由で争っているのか当事者ですら分からなくなってしまったような戦争が少なくないことは歴史が示している。

コリン・ファレルの困り顔の素晴らしさも相まって、ついついパードリックに肩入れしてしまうが、個人的には最近「もしかすると、よく喋る人があまり得意ではないのかもしれない」と思い始めたこともあってか、コルムの気持ちも非常によく分かった。コリン・ファレルブレンダン・グリーソンはもちろん、バリー・キーガンが素晴らしい。

夜、下北沢。カレーの店・八月でカレーを食べる。全然お腹が空いていなかったのに美味しくて余裕で完食。少し古着屋を回って時間をつぶし、DaisyBarへ。よく気まずくなったり喧嘩したりもしてしまう変なマブダチ、ミレーの枕子の弾き語りライブ。きっと緊張していただろうけど、それを感じさせない素晴らしいライブでした。輝いていた。自分が目につきやすい位置に居たからか、歌いながらめっちゃこっち見てくるやんと思って変にニヤけてしまった。終わってから確認したところ、やっぱり気のせいではなかったらしい。聴いていてとても楽しい気分になれた。周りもみんな楽しそうだった。本人も楽しそうだった。何よりそれが一番。

枕子さん以外の出演者の人たちも素晴らしかった。DaisyBarは、自分も昔よくバンドで出ていて、正直良い思い出はなかったけれど、今日の出演者はみんな本当に素晴らしくて、もしかしたら嫌な記憶が蘇ってくるかもしれないという行くまでの疑念を塗りつぶしてくれた。というか、歳なのかなんなのか、ステージ上で誰かが一生懸命演奏して歌っているだけでなんか感動してしまう。そんな感じのエモい気分になりながら帰宅した。

❒ 4月8日
ご飯食べてダラダラしてから運動。『インフル病みのペトロフ家』を観る。妄想と現実と記憶を行き来する物語はついていくのがかなり困難だった。シームレスかつ複雑なシーン転換やものすごい長回しの中、突如刺激的なアクションや暴力描写が挿入される強烈な映像世界にも気圧される。インフルエンザに罹って彷徨う主人公と同様にこちらまで朦朧としてしまうような鑑賞体験自体も含めて、ポスト・ソヴィエトの混沌を体現しているようで、芸術の力を思いっきりつきつけられたような気分。

夜、また結構高めの買い物をしてしまった。買うなら買うで潔い気持ちで買って、罪悪感など持たなければいいのに、それができない。自分は特に最近、大した趣味も心から打ち込めることもないから、その空虚さを満たすために買い物に走ってしまっているように思う。少し仕事が増えて「仕事しかしてない感」を感じることが多くなったのも大きい。3割くらいニートって感じでゆったり仕事をしていた時の方が、収入も少ないけれど浪費も少なく、お金が貯まった。元々物欲も浪費もかなり少ない方なので、むしろ今が普通なのかもしれないけれど。

『ウォリアーズ』を観る。コミック的でダサかっこいい作品世界(良い意味でも)だが、オープニングは映像も編集も文句なしにおしゃれで素晴らしい名シークエンスだと思う。ネオンの光る観覧車、THE WORRIORSのおどろおどろしいタイトルをバックに駅に入ってくる電車。ヘッドライトと窓から漏れる光が、闇夜にぼんやりと浮かび上がっている。その後に、ウォリアーズの面々が電車に乗り込んでからふざけ合う様子や時折挟まれる会話をクローズアップでとらえたショットも、駅を通過する電車のショットも、個性的なギャングたちが集結してくる様子も、完成度の高いテーマソングも何もかもが最高。全体を通してほぼロケ撮影なので、70年代後半の雑多なニューヨークの街並みを味わえるのも嬉しい。ウォルター・ヒルはこの作品をコミックのように演出したかったと後から聞いて、色々と腑に落ちた。

布団に入っても全然寝付けず、朝方まで起きていた。一度も飲んだことのない種類の睡眠導入剤を試してみてもダメだった。ここ最近ずっと寝つきが悪く、眠りについても1回か2回は必ず目が覚めてしまう。そこから再度眠りにつくのが大変。

❒ 4月9日
いまいち調子が出なくて、コンビニで払い込みがてらまた大きな公園に来た。しばらく歩いて、人気の少ない椅子とテーブルを見つけた。ぼーっとする。調子良くもないけど悪くもないかな、くらいになってきた。

しばらくそこで本を読んでいると、2人組の女性が近づいてきた。宗教勧誘だった。こういう時の対処法は、一切自分の意見や反論を混ぜずに、ふーんと聴いていること。おかしいと思って反論すれば議論になり、話が長引いて面倒くさいし「興味がないわけではない」と判断されるかもしれない。それどころか、かえって「見込みがある」とすら思われかねない。勧誘する人にとって一番手応えがないのは、全く興味がなく何も言ってこない人だろう。もっと意志が強ければ、黙って立ち去るのが一番良いのだろうけど。全然いらない資料だけもらって終了。というか、また大学生くらいだと思われていたらしい。

近くのデパートの本屋へ行くと、隣に古本コーナーが併設されていた。そこに保坂和志の『残響』があったので購入。本屋で手帳も買った。夜、近くまで来ていた友人がデパートに来てくれることになり、一緒にフードコートでご飯を食べる。肉のどんぶり。それでも足りず、食べ終わってすぐマックに移動して、ポテトとナゲットのセットとカフェラテを頼んでしばらく喋った。その後、大きな公園に移動してちょうどいい場所を見つけて、友人の持っていたギターで遊んだ。あまりに久しぶりのギター。一人だと今は触る気にもならないけれど、ノリで人とセッションしたり歌ったりするのは楽しい。友人の終電まで公園で遊んで、ギリギリダッシュで電車に乗って解散。

友人のおかげでかなり元気になった。元気になり過ぎたのか、今日もだいぶ遅くまで寝つけなかった。昼間は眠いのに。

❒ 4月15日
雨。家にずっといた。映画2本観て運動。

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』。思っていた以上にドライで硬質なタッチ。大げさに感情を煽ることなく、二人の記者が淡々と事実を収集するその様子を丹念に積み上げていくことでサスペンスの度合いを深めていくような非常に完成度の高い作品だった。よく比較されている『スポットライト世紀のスクープ』以上にエンターテイメント要素は少ないかもしれない。『大統領の陰謀』のような地味なジャーナリズム映画の系譜に連なるが、同時に「人間」を描こうとする意識も強く感じる。個人の断罪を超えて構造の問題に向かうところも誠実で進歩的だと思う。

『アマンダと僕』。全く予期していなかった出来事が突如として起こってしまうのが人生というものだ、ということをここ最近特に実感していたので、とても他人事とは思えない気持ちで観ていた。ひたすら画が良くて、全編を通して映像の快楽度がものすごく高い。ロケーションを生かした撮影はエリック・ロメール、移動(主に自転車による)ショットの気持ちよさはジャック・タチのよう。良い画が撮れるだけに、ある日急に起こってしまうテロ事件の描写もとてつもなくリアルでぞっとする。かといって死をセンセーショナルに描くこと自体が目的なのではなく、本当の物語がそこから始まるのだ。

ラストシーンの分かりやすさなども含めて結構ドラマ性があるし、"Elvis has left the building(エルヴィスは建物を出た)"のような印象的なセリフや印象的なシーンも多く、案外キャッチーな作品だと感じた。主役のダヴィッドがさりげなくGirlsを聴いていたのもアガった。

❒ 4月16日
12時半、新宿。友人と合流しシネマカリテへ。『ガール・ピクチャー』を観る。自分のガールズムービー好きを再認識した。けっして大きな話ではないが、とてもパワフルで正しくエモーショナルでスウィートな映画。キャラクターたちも非常に魅力的に描けている。特に、明るくてチャーミングだけど不器用なロンコがお気に入り。彼女の笑い話やユーモアは相手をしらけさせることが多かったが、正直めちゃくちゃ面白いと思う。「変わらない」と気づくこともまた大きな変化の一つなのだ、と彼女を最後まで見ていて気づかされた。青春映画ながらそういった余韻や余白がしっかりとあって信頼できる。

クィア映画はメッセージ性ばかりが前傾化して押し付けがましくなってしまうことも少なくないが、その点も本作は自然だし、そもそも人によって性的指向が異なるのが当たり前になっていて「同性愛だから問題が起きてしまう」というようなこともなく物語が進んでいくところも最新の映画の一つの形を見たという感じがする。タイトルバックやエンドロールまでおしゃれで、総合的なプロダクションデザインの完成度が高いところも良い。

上映後、一旦ぶらぶらして時間をつぶして早めに飯。適当に近くにあった居酒屋に入った。全室個室なのは良いけれど、悪い方の歌舞伎町文化を取り込んだウェイな感じの店ですべてがめちゃくちゃスベっていた。2時間くらい食べて飲んで帰宅。

❒ 4月23日
貴重な休みの日。しばらく週6勤務になってしまってブルーです。忙しくてゴールデンウィークの雲行きも怪しくなってきた。ブルーといえば、ブログの文字を全体的にダークネイビーっぽい色にした。スマホからだとあんまり分からんけど。パソコンから左クリックドラッグで文字を範囲選択した時の色もそれに合わせて変えてみた。上のタイトルの背景のバーの部分にも少しグレーを入れた。ブログ自体はどシンプルなデザインだけど、実は結構こだわっていて、変に凝り性なところがあるから誰も気づかないレベルでちょこちょこ調整している。文字の大きさやフォントを変えたり、文字色の微妙な濃淡を変えたり、本文の行間やタイトルの字間を調整したり。「誰も気づかないレベルで」とか書いたけど、そもそもほぼ誰も読んでなかった。

15時頃、池袋で友人と合流。雑司ヶ谷を目指して歩く。池袋駅周辺の喧騒から一気に雰囲気と時間の流れ方が変わる感じが好き。そのトリップ感を味わいに来ているところもある。雑司ヶ谷鬼子母神にある甘味処で団子を食べて一息つく。周辺散策。都電荒川線を眺める。目白台の方まで歩いてTOYAに行く。相変わらずセンスのいいものばかり置いてあった。いつかそれなりのものを買ってまとまったお金を落としたい。前からちょっと気になっていたちょうどいいサイズのトートバッグを買った。力の抜けたデザインで可愛い。雑司ヶ谷霊園に行くのを忘れていたのに気がついて戻る。かなり広い。夏目漱石の墓を見る。歩いているうちに友人も自分もカレー気分になってきた。下北沢に行くか神保町に行くか迷い、神保町へ。カレーの前にブルーブルー神田を少し覗いたら気になるものが増えていた。お金欲しい。山ほど。

今日はいつも並んでいて尻込みしてしまうボンディの列に初めて並んでみた。それなりに待つ。普通にうまいっす。心なしかガヴィアルより少し辛い気がする。肉がゴロゴロ入っているのと、2個丸ごと出てくるじゃがいもが美味しくて嬉しい。食べ終わり、少し歩く。喫茶店はほぼどこも閉まっている中、まだやっていた壹眞珈琲店に入る。香りはしっかりとあるのに割とすっきりした味わいのコーヒーで好みだった。21時まで1時間ぐらいだらだらして解散。あっという間の一日。

❒ 4月29日
週6勤務無理です。早く終わって欲しい。毎週のように休日出勤や長時間残業が当たり前の人たち本当にすごい。週6でも別にそれで死ぬ気配はないからいけると言えばいけるんだけれども、ライフスタイルとして普通に嫌だ。天気悪いから引きこもって映画3本観て運動。先週できなかったので少しきつめの回数頑張った。

『パラレル・マザーズ』。ペドロ・アルモドバル作品としてはあまり濃厚でない部類に入るかもしれないが、物語的な引きが強くて純粋に面白かった。大胆に時間を飛ばしたり、編集面でもテンポの良さが際立っている。鮮やかな色彩設計やメロドラマっぽさ、さらっと当たり前のようにクィアを描くところなどは今までの作風通りだが、個人的な物語がより大きな歴史やルーツに接続していくところにアルモドバルの新境地を感じる。

『サマーフィーリング』。次作の『アマンダと僕』同様、ひたすら快楽度の高い映像が全編にわたって続く。そして、本作もまた"喪失"を扱っている。舞台となるベルリンもパリもニューヨークも美しいが、彼女(サシャ)だけがいない。季節が夏であるのも共通しており、美しい陽光が不在の寂寥感を際立たせる。カメラは喪失を抱えて生きる人間の姿をただ淡々と映し出す。

淡々としているとはいえ、ミカエル・アース監督は割とサービス精神の強い人だと思う(『アマンダと僕』の時にも思ったが)。それは映像だけでなく音楽の使い方にも表れているし、脚本や演出にもセンチメンタルだったりエモーショナルだったりするところが案外ないわけではない。キャッチーなサービス(本作でのマック・デマルコの出演シーンのような)も少なくない。ともすれば悪い方向へ転がる可能性もあるところを奇跡的なバランス感覚で繋ぎ止めているように感じる。

ザ・ドライバー』。めちゃくちゃ渋くてハードボイルドで男くさい。普通に名作。セリフも少ないし、ロマンスもないし、主要キャラクターに固有名詞すらないという徹底的な無機質っぷり。削ぎ落としの美学が貫かれている。夜の街で繰り広げられるカーチェイスのシーンがかっこいい。ラストシーンも渋くて痺れた。