2023年6月のこととか

❒ 6月4日
映画2本観た。運動した。

『パリの灯は遠く』。サスペンスの快楽よりも歴史の重みを感じる。普段は非情なほど無関心で保身に走りがちな傍観者タイプのくせに、好奇心と執着心はやたら強くて深みにハマっていってしまう主人公がまるで自分のようだと思った(ただし、見た目の美しさは全然違うけれど)。というより、あらゆる愚かな人間たちを映す"鏡"のよう。

『私の20世紀』。イルディコー・エニェディ、これが長編デビュー作というのはいろんな意味ですごい。まるでサイレント映画の名作のようなルックに夢のような物語展開で『心と体と』や『ストーリー・オブ・マイワイフ』と比べてももっと風変わりな作品だった。科学技術が目覚ましい発展を遂げ、"映画"という魔法が発明された19世紀末から20世紀初頭を自由で幻想的な筆致でとらえている。つまり、"映画"の映画でもあるのだが、ここには愛とノスタルジーだけでなく、人間が何を失い何を捨ててきたのかということへの眼差しがある。光の使い方が美しく、モノクロの画面にとても映えていた。アイリスインとアイリスアウトを繰り返す編集もキュートで、映像詩のような映画ながら肩肘張らずに観ることができる。

❒ 6月11日
明け方まで起きていた割にはそこそこ起きれた。15時、下北沢へ。友人と合流。エキウエに出店していた古着屋で青いシャツを買った。全然アロハっぽくないけど作り的にはたぶんアロハ。その後、八月へ行ってカレーを食べる。友人があいがけにしていたキーマカレーを少しもらったらキーマも美味しかった。あとここは肉がよくて、ポークでもチキンでもなんでも美味い。

出て、目的地のモナレコードへ。来るまで知らなかったけれどこの日は店長のバースデーイベントだったらしく、モナレコードにゆかりのあるアーティストがたくさん出演していた。ミレーの枕子バンド目的で来たが、他の出演者の人たちもみんな良くてレベル高過ぎでした。大人数の編成が多かったので「自分もカスタネットか何かでメンバーに加えてください」という気持ち。知らないパーティーに来たような感じもあってめちゃめちゃ楽しかった。結局終わりまでいた。終了後、小腹を満たすためにコメダ珈琲で軽く食べる。閉店まで友人とダラダラ話してから帰宅。最近、仕事や職場の人間関係で悩んでいる人が周りに多いような。

❒ 6月17日
午後、やっと動き出して渋谷へ。ヒューマントラストシネマ渋谷で17時から『aftersun/アフターサン』を観る。一見すると久しぶりに会った父親カラムと娘ソフィのひと夏のトルコ旅行の思い出を描いているだけの映画なのだが、行間を豊富に含んだ丁寧な演出や緻密に設計されたショットの断片から次第に繊細な事情があらわになっていく。カラムは明らかに深刻な精神的問題を抱えており、ところどころで自死の念をほのめかすシーンが挿入されている。20年前のその記録映像を、当時の父親と同じ年齢(31歳)になった娘が見返し、記憶をたどり、想像をふくらませるという話になっていて、その構造にこの映画の一番の面白さがあるといえる。父と同じ歳になり、当時の父と共有する境遇(31歳のソフィにはパートナーがいて、子供もいる)が増えたからこそ残酷にも見えてきてしまうものがあるのだ。

少女ソフィは、勘がよく大人びていて賢いため、当時から父親の立場やあらゆる感情を理解し感じ取っていたが、まだまだ無邪気な11歳の子供である。一般的に子供といえば、父や母が"親である"前に、まず"人間である"ということを想像もしないもので、本作はそんな理解と無理解の間に流れる繊細な空気を一貫して写し取っている。シャーロット・ウェルズ監督の実体験をもとにした切実な作品で観ていてつらかったけれど、とても美しい映画だった。

❒ 6月18日
映画観て運動した。

『ベネデッタ』。舞台となる17世紀イタリアの小さな町の修道院は、現代に通ずる社会全体のシステムのアナロジーとしてもとらえられる。その権力構造をかき乱し、ゆるがす存在としてのベネデッタ。彼女が抑圧からの開放だけでなく、権力の獲得へ向かう人物であるところに特に面白さを感じた(その意志があったのかどうかは不明だが)。「権力についての映画」という意味では『TAR/ター』との同時代性も感じる。女性の欲望をモチーフにしたり同性愛的な愛を描いたりする映画は少なくないが、ここまで容赦ない映画はそうそうない。

強烈な描写で気を引こうとする意図がやや強く感じられるところは気になるが、それもポール・ヴァーホーヴェンらしい。徹底したリアリストの描く"あえて"の露悪性というか。ナンスプロイテーションやピカレスクロマンのようなジャンル性と俗っぽさを残しつつも、史実に基づいて想像力をめぐらせた娯楽作品になっており、そのあたりのバランスも絶妙だった。

氷の微笑』。センセーショナルな描写ばかりが語られがちだけれど、エロティックなムードを湛えた演出自体が巧みで素晴らしいと思った。サスペンスと結びつくことで跳ね上がる官能。今観るとヴァーホーヴェンの作家性が見えてまた良い。

❒ 6月24日
日中はずっと死体ごっこしていた。たまに人と話したり寝たり。6月、徹底的に無気力。

夜、レイトショーへ向かう。『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』。今年一番の衝撃。超優れた娯楽作品であると同時に、完全に140分間のポップアート、コラージュアートだった。まずアバンタイトルの時点でぶっ飛んでしまったのだけど、そのまま最後まで同じレベルの画面(絵)の精度を維持してくる驚異的な作品。アニメーションならではのアングルや演出も盛りだくさんで、普通に現時点でのアニメーション表現の頂点ではないかと思う。キャラクターも魅力的で心をくすぐられるし、音楽も最高。同じベクトルで本作を超えるものは(続編の『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』を除いて)もう出てこないと思う。

メインのストーリーラインは「自由意志と決定論」というもはや定番になったテーマをもとにシンプルに描いていて、そこに恋愛や親と子の関係、若者の悩みなどさまざまなサブプロットが絶妙な塩梅で絡んでくる。情報量は多いけれど、実はプロット面ではそこまでごちゃごちゃしていないところが、娯楽性の高さにつながっているのだと思う。制作過程で一人の圧倒的なカリスマがいるというわけではなく、1000人のアニメーターが主体的に参加しているところも健康的だし、この制作スタイル自体が作品の内容とも結びついているように感じる。

歩いて帰って寝た。

❒ 6月25日
ほぼ何もしていない。無気力。死体ごっこ。気合いでなんとか運動だけはした。

むしゃくしゃしたからマキノ雅弘の映画だーと思い『日本侠客伝 関東篇』を観た。すごい面白かった。鶴田浩二高倉健もけっしてゴリゴリじゃない感じが魅力的。2人が並んで写った時の画面の力よ。

❒ 6月29日
有給。朝からハンバーガー気分で、吉祥寺のWAKIE WAKIEに行きたかったけれど、なんと閉業していたので、本店のCHATTY CHATTYへ行くことにした。12時半ごろ新宿御苑駅で友人と合流。初めて食べた時のインパクトには劣るものの、変わらず美味しくて満足。

食後、もう少し涼しければ新宿御苑内を散歩したり大温室に行ったりしたかったけれど、なんせ今日はめちゃくちゃ暑い。今年一番ではないかと思うほど。あまり歩き回るのはやめて、電車で新宿駅まで移動して、健康プラザハイジアの四階という(「本当にこんな所にあるのか?」と思うような)変わった場所にあるNo.13cafeに入ってプリンを食べた。かなり美味しかった。地域のコミュニティ・カフェみたいな雰囲気なのに、ポップで鮮やかなクリームソーダやはちみつチーズケーキなど写真映えするおしゃれなメニューも多くて面白い店だった。客層も場所柄、お年寄りの集団から若いカップルや水商売っぽい女性までいろいろな人たちがいる。

夕方、他の友人2人と約束があったので解散。池袋で合流。適当に入った鳥メロで飲んで喋った。2人ともまだ仕事が残っているらしく、20時ごろには解散。最寄駅に着いたら雨が降っている。小雨だからいけるっしょと思い、小走りで家まで向かったら思ったより体が濡れる。もう少し弱まるまで軽く待とうと木の下に入ると、逆にどんどん強まり、ざあざあ降ってきてしまった。木の下でも濡れるくらいなので走って駅のほうまで戻る。びしょ濡れ。全てが裏目に出た〜。近くの映画館でしばらく待って、ほぼやんだ頃に歩いて帰宅。